- 若干引きこもり気味だった日本にペリーさんと黒船軍団がくる
- 住民たち大フィーバー
- 浦賀奉行所の与力のみなさんが「長崎行って!」と言いに行く
- 黒船の人たち「偉い人としか喋りません!」
- 与力の中島くんが“副奉行”だと嘘ついて黒船に乗りこむ
ペリーさんの策略
そんな感じでサスケハナ号に乗り込んだ中島くんと堀くん。
彼らに与えられていたミッションは、黒船ご一行が日本に来た理由を聞いて、とりあえず長崎に行ってもらうことです。
船室に通された彼らの前に、ペリー提督の副官・コンティ大尉(と通訳の人)がやってきました。
とりあえず大物ぶってみた
先ずは如何様(いかよう)な所用か伺いたい。追って長崎で対応いたすゆえ、可及的速やかに移動願う!(キリッ!)
中島くん
わー中島さん超副奉行っぽい! じゃ、オランダ語に訳すよー。「ふぁーてるみぃふぁろん(中略)ながさーき!」
堀くん
黒船の通訳
「なんの用で来たの?」って聞いてます。あと「ここはダメ、長崎行け」だそうですー
コンティ大尉
は? アホだろ、行くわけねえじゃん。まあいいや、俺ちょっと一服してくるから。ペリー提督に返事聞きに行ったっていう体(てい)でよろしくー
黒船の通訳
ペリー提督にお返事聞いてくるので、ちょっと待っててクダサイネー
ここでペリーさんの『いちいちもったいぶって大物感をかもしだしちゃう大作戦』が炸裂し、待たされる中島くんと堀くん。
日本側のなるべく偉い人を交渉に引っぱり出すための「俺様は超スペシャル偉い人だぞ」というアピールでした。
ちょっと副奉行を脅してみた
しばらくして戻って来たコンティさんのお返事はこんな感じ。
(以下、通訳の2人は省略)
コンティ大尉
じゃ、お返事シマス。ワタシタチは、アメリカの大統領からの親書(国の一番偉い人からのお手紙)を持って来マシタ。これ将軍に渡すまで船は動かしマセン。だから長崎に行くのもムリデース。
いやいやいやいや、こっちこそ無理だから。
ここでは親書など受け取れぬ! 長崎以外では外国と接触できぬ決まりゆえ、そちらへ参られよ!
中島くん
コンティ大尉
だからムリだってば。むしろ受け取りたいっつってもアンタには渡せないんデスヨ。浦賀の偉い人じゃなくて幕府の偉い人じゃないとダメなんデス!
ぐぬぬ、失礼な! 主では話にならぬわ。
責任者と話をさせろ!
中島くん
コンティ大尉
ムリに決まってんダロ。ワタシタチが交渉する相手は将軍だけデス。百万歩ゆずっても幕府の高官。だからとっとと帰って偉い人呼んできてクダサーイ。あ、そこらへんの船も全部連れて帰ってヨネ。じゃないと大砲ぶっぱなすゾ!
だからこっちも無理……って、大砲ぶっぱなすーーー!?
ダメダメダメダメ、それ別の意味で絶対無理。
さあ堀くん、奉行所へ帰ろうか。番船のみんなも帰るよー!
中島くん
本当のところは……
武力をチラつかせてニセ副奉行・中島くんを脅した黒船ご一行でしたが、実はこの時のペリーさんは“戦争をはじめる決定権”を持っていませんでした。
大統領からも「発砲ダメ! 絶対!」と言われてたし、当時のアメリカでは「戦争おっぱじめるぞー」のゴーサインは議会が出す決まりだったのです。
でも、外国人が日本について書いた本を集めて読みまくってたペリーさんは「日本人はずるがしこい。友好的にいっても逃げられるだけだから、超強気で脅した方がいい」と考えていました。
それにいくら発砲を禁止されてるといっても、自衛のためなら戦える――つまり、日本が攻撃してきたら大砲ぶっぱなしてもオッケーです。
なので、本気で戦争する気はないものの、ペリーさんはものすごーく強気で上から目線だったのでした。
こうして黒船との初の接触は、タヌキ親父・ペリーの策略により、ニセ副奉行・中島くんたちが追い返されて終わりました。
浦賀奉行所の憂鬱
ちなみに浦賀はこのあたり。東京湾の入口部分にあります。
浦賀に外国船がやってきたことは何度もありますが、今回はこれまでの船とは違いすぎました。
最新式の蒸気船であることはもちろん、長崎へ行けという日本側の要求を思いっきり無視して、「攻撃すんぞ」と直接的な表現で脅されたのも初めてです。
奉行所へ帰った中島くんと堀くんは、急いで奉行・戸田氏栄に報告に向かいました。
奉行・戸田の嘆き
戸田さん
わー、やっぱそうくるんだ。俺は見てねえけどさ、前回メリケンの船が来た時もヤバい感じだったんだろ?
ああ、うちの父ちゃん(元与力)が交渉した時っすよね。俺も番船乗ってたんで近くで見てましたけど……
クソでっけー船に大砲がババババーッと並んでて、あの時も「終わったわー」って感じでしたよ。
すぐ帰ってくれたから良かったけど、みんな「次は絶対こんなにすんなり行かねえだろうな」って言ってましたもん……
中島くん
戸田さん
“次”が、とうとう来ちゃったって感じかー。
何とかして長崎行ってもらうっていう計画だったけど、相手がそんな態度じゃキツいわなー
ホントそれ。あの大砲ぶっぱなされたら、1発で浦賀終了って感じですしね……
中島くん
戸田さん
だなー。とりあえず幕府には「今回はマジでかなりヤバい」って報告しとかねえと。
あーでも明日はどうすっかなー。お前が副奉行のふりしたんなら、次は最低でも奉行クラスが行かなきゃダメだろ?
戸田さんが行くのはダメですよ!
中島くん
戸田さん
行かねえよ。まあ、ここは香山だな。あいつ、去年「メリケンが来るらしい」ってウワサが流れた時に色々動いてたし、オランダからの風説書も見てるからなー
え、そうなんだ。知らなかったっす。まあ確かに香山はいいと思うけど……あいつも俺と同じ与力っすよ?
中島くん
戸田さん
そこはほら、なんか適当に責任者っぽい感じで行けば大丈夫じゃね?
ああ、そうっすよね。俺も今日“副奉行”って言ったけど、本当はそんな役職ないってバレなかったし
中島くん
戸田さん
だろ? あいつら、どうせこっちの役職や地位なんてよくわかってねーだろうし、“副奉行”のお前より偉く見えさえすれば絶対バレねえって
間違いねえや。じゃあそんな感じで香山に用意させときますね
中島くん
戸田さん
おう。俺はこれから警備とか手配しなきゃなんねえし、あとは頼むわ。ペルリにも明日はもうちょい偉いやつが行くって伝えとけよー
はーい、伝えに行ってきまーす
中島くん
与力たちの悩める夜
こうして精神的に超ハードな現場行きをまかされたのは、中島くんと同じ与力の香山くんでした。
奉行所の中間管理職である与力たちが外国船の対応をするのはいつものことですが、身分を偽って交渉にあたるのも、戦争をチラつかせて脅してくるヤツを相手にするのも初めてです。
そんな中、香山くんが今回の超重要ミッション(という名の無理ゲー)を託されたのには訳がありました。
実は彼、アメリカの艦隊が来るらしいというウワサが流れた前年に、奉行・戸田にひとつのお願いをしていたんです。
戸田さん、本当にアメリカの艦隊が来るのか幕府に確かめてくださいよー。
もし来るなら色々準備しとかないと……
香山くん
そして奉行・戸田さんは幕府のナンバーツー・老中首座の阿部さんに聞きに行き、オランダからの「黒船来るらしいよ」っていう報告書(オランダ風説書)の写しを持ち帰りました。
もちろん香山くんもそれをしっかり読破。その後は戸田さんと一緒に、ある程度の準備もしていたのです。(最初に黒船の人に見せたフランス語の巻物も、この“準備”のひとつです)
しかも愛想が良くて押しが強い、交渉にはうってつけの人材とくれば、ここはもう香山くん以上の適任者はいません。
中島より偉く見えるように、高そうな服着ていかなきゃなー
香山くん
ゴージャスな刺繡の入った羽織を用意して、明日にそなえる香山くん。
一方の中島君はというと……
マジでヤバいわー。あいつらにあのでっけー大砲ぶっぱなされたら、今の日本の船や台場じゃ勝ち目ねえよ……
中島くん
ものすごーく心配していました。
実は中島くんの方も、槍も剣も大砲も得意な超優等生。
中でも砲術に関しては、免許皆伝の腕前だけでなく、洋式の砲術から大砲の製作や砲台の建造まで何でもこいというエキスパートだったのです。
与力見習いだった14歳の頃から最前線で外国船の対応をしてきたし、イギリス船の設備を見学に行ったり、それを参考に船や大砲を造ったこともあります。
そんなプロの目から見ても、今回の黒船は「超ヤバい」としか言えません。
すんなり長崎へ行ってもらうのは無理そうだし、まさか戦争になったりしないだろうか……と悩む中島くん。
そんな彼の不安を煽るように、たくさんのかがり火に照らされた浦賀の海岸に、ドーン、ドーンと轟音が鳴り響きます。黒船が夜の時報として放った空砲でした。
「戦争はじまるかも!」と荷物をまとめて逃げ出す人、空砲だと知って「わーい花火ー!」と喜ぶ人、そして「やっべー、鎧とか戦用の刀なんて持ってねーわ」と急いで武器防具を買いに走る人――。
そんな喧噪の中、浦賀の夜は更けていったのでした。
続きはこちら