黒船来航① 幕末のはじまり

はじまりは黒い船

それはある夏の日の夕方のこと。遠くに見える何かに気付いた浦賀(神奈川県横須賀市)の町は、騒然となっていました。
もくもくと煙を吐き出す真っ黒な船が、海の向こうからやってきたのです。

ババババーッと大砲が並んだ、日本の船の何倍も大きな黒い蒸気船が2隻と、それよりは小さくて煙を吐かない帆船が2隻――。
当時海軍代将だったマシュー・カルブレイス・ペリーが率いる、アメリカの艦隊でした。
はるばる地球を半周以上してやってきたこの“黒船”軍団が、幕末という激動の時代の扉をこじ開けることとなるのです。

威圧 VS 野次馬根性

野次馬ジャパン

嘉永6年6月3日(1985年7月8日)、夕方。

キラキラと輝く水面の上を進みながら、青く澄んだ空に向かってどす黒い煙をまきちらす、真っ黒な船――。

「う、うわぁぁぁ、なんだあれ!」
「やっべー、マジでやべぇよ、あんなのが来たら……」
「い、伊豆大島が噴火しながら近付いてくる……!」

と、あまりの恐怖に逃げまどう人々……は、どこにもいませんでした。
教科書には「みんなビックリしてパニックになった」って書いてあったかもしれませんが、実際のところはパニックっていうより大フィーバー

うわあああ、なんだあれ!
おい、もっと近くで見ようぜ、早く船出せー!

住人A

やっべー、マジでやべえよ、あんなのが来たら超テンション上がるっしょ。すっげえ、でっけー!
あ、お隣のおちよちゃんにも教えてあげよっと。

住人B

なにあの超もっくもく、ちょっとした噴火じゃん。うはwwwこっちくんなwwwww つーか、むしろ俺が行くわー。待ってろ黒船!(船を漕ぎ出しながら)

住人C

実際はこんな感じだったらしいです。
住民の人たち、ビビるどころかみんな船出して見物に行っちゃった。おまけに、あわよくば何か売りつけてやろうと試みるおっちゃんや、キレイなお姉ちゃんたちをはべらせて船の上で酒盛りするおじいちゃんまで現れる始末。

驚くペリーさん

ペリーさん

ちょ、マジか……日本人ぜんぜんビビってねえじゃん。普通怖がって逃げるだろ!

ペルリさんことペリー提督もこの日本人の行動には仰天でした。
そこへやってきたのが浦賀奉行所の役人さんご一行

役人「はい、みんな解散ー!」

住人A「うはwww 役人キタ! やっべー、ずらかるぞ!」
住人B「キャー今すぐ退散しますします!」
住人C「します!(……と見せかけてちょっと離れたとこで見ようぜ(小声))

ペリーさん

え、まさかこの人たち……このでっかい軍艦よりも役人が怖いの? ありえねえ……

今まで見たことがないようなデカくて煙を吐く軍艦を見せつければ、絶対にビビって言うこと聞くはず! って思ってたのに、そこにいたのは恐怖にすくみ上がる民衆ではなく野次馬の山。
ある意味、日本人の野次馬根性……いえ、知的好奇心の勝利でした。

銃 VS 縄梯子

ペリーさんの対策

サクッと野次馬を追いはらった浦賀奉行所のちょっぴり偉い役人・中島くん
長崎から派遣されてきていたデキる男・堀くん
「あ、あの旗が立ってる船に一番偉い人が乗ってるはずっす!」
って言うので、番船をいっぱい引き連れて、まっすぐにペリーさんの乗るサスケハナ号へ向かいました。

何十艘もの番船が、ぐるりと黒船の周りを取り囲みます。
そして「乗りこめー!」の合図で縄をかけ、よじのぼりはじめる警備のみなさん。
実はこの頃の日本では、外国船がやって来ると、こうして勝手に船に乗りこんじゃうのが通常運転だったんです。

相手の目的を聞き、時には多少フレンドリーに交流したり、またある時には武器などを没収したりしつつ、最後は「日本の法律で決まってるから帰って!」とお帰りいただくのがいつものパターン
7年前に日本へやってきたアメリカの軍艦も、しっかりそのパターンで追い返されています。

それを知っていたペリーさんは、全部の船に「日本人は絶対乗せちゃダメ! 全力で阻止して!」と命じていました。
黒船の人たちはその命令にしたがい、よじのぼろうとする者に銃を向けてきたのでした。

撃沈ジャパン

役人A「ちょ、みんなー、撃たれるから船のぼるのやめーーー!」
役人B「じゃあアレの出番だな。おーい巻物渡してー!」
役人C「はいよ! ねえねえ黒船の人ー、この巻物受け取ってーーー!」

当時の海上の共通語・フランス語で「ここに船とめたら危険だよ! 帰って!」って書かれた巻物を黒船の人に渡そうと試みますが、誰も受け取ってくれません。

役人C「拒否かよ! なら広げて見せてやるから読め! はい注目!!」
黒船の人たち「…………」
役人C「シカトすんじゃねーーー!」

勝手に船に乗りこむいつものパターンも、用意してきた巻物も見事に撃沈でした。

通訳の人 VS 通訳の人

嘘も方便ジャパン

そこで立ち上がったのが、与力の中島くんと通訳の堀くん

はあ、巻物も無理かー。なんか今回ヤバそうだね。
堀くんいける?

中島くん

はーい、いけますよー。(大きく息を吸いこんで)
あいきゃんすぴーくだっちーーー!

堀くん

黒船の通訳

へえ、喋れるんだ。でもどうせ下っ端なんでしょ? ボスは偉い人としか会わないから、悪いけど帰って!

(ぐぐっ、確かに中島はただの与力……まあいいや、どうせバレねえだろ)ねえねえ、この中島さんって人、浦賀の2番目に偉い人だよーーー!(大嘘)

堀くん

黒船の通訳

え、そうなん? ナンバーツーかー。
でも2番目じゃちょっと厳しいわ

えーマジで? じゃあさ、ボスの部下の人となら話せる? このまま帰るわけには行かないんだよね

堀くん

黒船の通訳

うーん、ちょっと聞いてくるから待ってて?

数分後

黒船の通訳

おーい、乗っていいよー

よっしゃー!
ほら中島さん、あっちの船に乗るっすよ!

堀くん

なになに? え、乗れんの?

中島くん

うん、中島さんが副奉行なら乗れるっすよ!
与力じゃ無理だけど

堀くん

あ、そういうこと?
よーし、俺はたった今副奉行になったぞー

中島くん

というわけで、ニセ副奉行となった中島くんと通訳の堀くんは、何とかペリーさんのいるサスケハナ号に乗せてもらえることになったのでした。

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黒船来航② ニセ副奉行・中島、頑張る【黒船来航一日目】